読書『リアルビジネス3.0 あらゆる企業は教育化する』(日経BP)日経トップリーダー編

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『リアルビジネス3.0 あらゆる企業は教育化する』(日経BP)日経トップリーダー編

ちょっと前に気になっていながら手に取りそびれていた本です。たまたまお友だちが本書の内容に触れている記事をブログに書いていて、「そういえば気になっていたんだった!」と思い出しました。初版が2019年11月となっていましたので、1年ちょっと前の本ですね。月刊経営誌『日経トップリーダー』(日経BP社)の特集記事などをもとにしたものだそうです。

「まえがき」に書いてある一文が、本書が出版された背景を簡潔に示していました。


『モノの時代が終わった日本では、製造業はサービス化し、サービス業はより進化したサービスを展開してきました。モノを売り買いしていた時代が「1.0」だとすれば、サービス化の時代は「2.0」、そして教育化が「3.0」と位置付けられます。』(『リアルビジネス3.0 あらゆる企業は教育化する』(日経BP)日経トップリーダー編より)


そういわれてみると、事業をしているお友だちのなかで、この方向にかじを切っている人がどんどん増えていることに心あたります。ただ、切り替えるというよりは、もうひとつの事業として、あるいは本業(もともとの事業)をサポートする事業として展開しているというイメージ。何かの代わりとして教育化があるのではなく、教育化によって全体が伸びていくイメージです。

「教育化の実例」が、BtoC(企業から一般客へ)、BtoB(企業から企業へ)の両方で合計16件載っています。よく名前を聞く会社もあれば、初めて知る会社もあり、業種業態も多種多様。どの事例も、読んでいて楽しくなってきます。この楽しさが「教育化」の本質だと感じました。誰かに何かを「教える」ことも、知らないことを「教えてもらう」ことも、お互いにとって「学び」や「成長」につながり、楽しい。

事例紹介の後にある「だから儲かる!」とタイトルのついたまとめコラムと、各事業の「三段活用」が図解されているのがわかりやすく、自分の事業に置き換えて考えるときに参考になります。「三段活用」とは、「売り買い → サービス化 → 教育化」というステップを整理する考え方。巻末には「三段活用シート」なるワークシートもついていますので、自社の事業の教育化を検討したいと思ったとき、すぐに取り掛かることができます。

わたし個人的には「事業の教育化」が一番最初に頭に浮かんだのは、花祭窯が創業してすぐの頃でした。それから20年以上が経って、やっと形にするタイミングがやってきたかな、と感じています。一つの事業分野でキャリアと年齢を重ねてきた今だからこそ、できるような気もしています。グッドタイミングでの読書でした。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”」

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肥前磁器の美:藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”」

磁器作家・藤吉憲典がつくる肥前磁器の美しさを伝えるシリーズ。「美しさ」には「用途の美」を含みます。使い勝手の良さも含めて「美しい」と言えるもの。そこにこそ、江戸時代から400年続く肥前磁器の価値があると思っています。

「肥前磁器(ひぜんじき)」という呼び方は、まだあまり一般的ではなく、「有田焼」とか「古伊万里」といった方が、イメージできると思います。肥前磁器とは、有田焼、伊万里、鍋島などと呼ばれる、北部九州地方(肥前地域)で作られてきた磁器の総称です。地域的には現在の佐賀県・長崎県あたり。

今回は「用途」からちょっと離れて、磁器人形をご紹介いたします。磁器人形(porcelain doll / figurine)というと、スペインのリヤドロや、ドイツのマイセンといったヨーロッパの磁器メーカーの名前が思い浮かぶ方も多いかもしれませんね。

それらヨーロッパ磁器のお手本となっていた江戸時代の肥前磁器にも、磁器人形を作る文化はありました。有名なところでは、柿右衛門窯の色絵磁器による人形。たとえばサントリー美術館には、1670年代~1690年代に作られた柿右衛門の手によるとされる色絵女人形があります。

下の写真は、藤吉憲典による色絵磁器人形「お茶を飲む婦人」。藤吉憲典の所属するロンドンのギャラリーでは、藤吉は「ceramicist(陶芸家)」と呼ばれたり「ceramic sculptor(磁器彫刻家)」と呼ばれたりしています。それはまさに、このようなポーセリンドール(porcelain doll)(フィギュリン figurineとも呼ばれます)を制作するから。磁器を素材とする彫刻家ということです。

色絵磁器人形 藤吉憲典
藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”
藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”

現代の肥前磁器の産地で、このように丁寧に美しい人形を作る技量を持った職人さんは、もうほとんどおられないかもしれません。「肥前磁器=食器」だけではないことを、形で残していくのも、藤吉憲典の現代肥前磁器作家としての大切な使命です。

読書『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)大西康之 著

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読書『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)大西康之 著

リクルート創業者・江副さんやリクルート社について書かれた本は、江副さんの自伝を含めたくさん出ています。社内(グループ内)向けに書かれたものを含め、四半世紀以上前の在職中から何冊も読んできました。にもかかわらず、新たに出るとまた読みたくなり…久しぶりにじっくり振り返りとなりました。上の写真は、カモメ。

わたしは残念ながら江副さんご本人に直接お会いしたことはありませんでしたが、それでもリクルートへの執着、その生みの親である江副さんへの関心があることは否定できません。その理由が、江副さんという創業者に対する熱狂ではなく、リクルートの仕組み(社風・考え方)に対する共感であることが、本書読後にあらためてわかりました。

以下、個人的備忘。


  • ファクトとロジック
  • 仕組み
  • 江副浩正というカリスマではなく、江副さんが構築した思想体系を信奉していた
  • 日本株式会社の人事部
  • モチベーション経営のもととなる「心理学」の大沢
  • 自分より秀でた人間をまわりに置くことで、自分のやりたいことを実現していく
  • ヒア・アンド・ナウ
  • 創り出す
  • ピーター・ドラッカー『現代の経営』
  • 二本の草を育てる者
  • データ・イズ・マネー
  • 社会への貢献・個人の尊重・商業的合理性の追求
  • 自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
  • 窮すれば変じ、変ずれば通じ、通ずれば久し(易経)
  • 君はどうしたいの?
  • カリスマの「リーダーシップ」に置き代われるもの(中略)社員の「モチベーション」
  • じゃあそれ君がやってよ
  • ハーズバーグの動機付け要因
  • 大沢武志『心理学的経営 個をあるがままに生かす』
  • PC(プロフィットセンター)制度
  • 垂れ幕文化
  • RING(リクルート・イノベーション・グループ)
  • GIB(ゴール・イン・ボーナス)
  • 情報の共有
  • 分からないことはお客様に聞け
  • バッド・ニュースほど早く
  • 情報の民主化
  • 「地方、貧乏、野望」とSPI
  • 企業人より起業人
  • ゼロ・トゥ・ワン
  • 自分の仕事は自分で作れ
  • 目標が定まると、知恵と行動力が湧いてくる
  • リクルートマンシップ
  • 暁の駱駝プロジェクト
  • マッチング
  • 言い出しっぺ
  • 圧倒的な当事者意識
  • 革新的なビジネス・モデルと、心理学に根差した卓越したマネジメント理論

『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)大西康之より


リクルート文化として一番わたしのなかに残っているのは、「君はどうしたいの?」と「最近どう?」です。「最近どう?」は、そのままの言葉では本書内に出てきませんでしたが、「情報の共有」に置き換えられるでしょうか。それも、単なる情報交換というようなものではなく、とても温かみのあるものであったことを言い添えておかねばなりません。しょっちゅう交わされる「最近どう?」の短い簡単な投げかけが、とても大切なものであったことは、リクルートに在籍した経験のある人なら心あたると思います。

「そうそう、そうだった!」ということももちろん少なくありませんでしたが、まったく知らなかったこと、気づかされたことがそれ以上に多く、読んでよかったと思いました。特に、創業期メンバーの一人であり、わたしにとって経営思想の師であるHRR創始者・大沢さんの、江副さんとの関係性を客観的な文章で垣間見ることができたのは、大きかったです。

「2021九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のよりよい関係」前半(2021.2.13)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2021九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のよりよい関係」前半(2021.2.13)

博物館学芸員技術研修で毎回お世話になっている、九州産業大学美術館・地域共創学部教授の緒方泉先生率いる「2021国際シンポジウム」に、オンライン参加いたしました。2019年に初めて参加した九州産業大学国際シンポジウム。昨年2020年はコロナ感染症が広がり始めたところでしたので、残念ながら参加を自粛していましたが、今年2021年はZoomでの開催と発表されたので、嬉々として申し込みました。ありがたいです。

今年は2月13日と2月20日の二部に分けての開催です。英国と米国をつないでのZoom開催。時差への配慮とオンラインでの集中力の持続を考えての二部編成。前半テーマは「withコロナにおいて、どのような感染対策をして、博物館活動を継続していましたか?」。日本からは、福岡市美術館さん、北九州市立自然史・歴史博物館(通称:いのちのたび博物館)さん、海の中道海洋生体科学館(通称:マリンワールド海の中道)の学芸員さんからの3件の発表。英国からはダリッジ・ピクチャーミュージアムさん、米国からはArts &Mindsさんからの発表。それぞれに特徴ある取り組みを聞くことができる、貴重な機会となりました。

以下備忘。


  • HOPE SPRINGS ETERNAL(希望の泉は枯れず)
  • Health & Wealth
  • 国(各国)のガイドラインに沿った対策。
  • 文化庁芸術振興費補助金を活用した感染症対策(空調等大がかりなものも)。
  • 予約システムの導入、曜日・時間帯等による来館者規定。
  • コミュニティ(地域社会)、コミュニケーションへの配慮と、美術館の役割意識。
  • Create responses
  • Here for Culture
  • Social justiceの問題 ※特に米国内の社会問題として
  • Every museum has their own Mission, Process, Outcomes and Lessons
  • Crisis(危機)→Anxiety(心配・懸念)→Introspection(内省)→Innovation(革新・刷新)
  • 2021 Museum Innovation

<以下、オンラインプログラムへのシフトに関連して>

  • オンラインをきっかけとした「新たな顧客」との出会い。
  • 物理的に来館が困難な方(遠方の人、障がいや病気で移動が難しい人)への機会。
  • 代替策としてのオンラインから、両立させるべき手法としてのオンラインへ。
  • 美術館の裏側紹介-いつも見れていたものが見えないときに、いつもは見れないものを見せる。
  • 材料の事前送付を含めた事前応募制による在宅ワークショップ。
  • オンラインでのギャラリートークも質問が出しやすいよう少人数で。
  • 各学芸員による、博物館活動、展示、研究分野等に関する動画制作・公開。
  • 動画再生回数等データ分析と、その後のコンテンツへの分析結果の反映。
  • 小中学校の休校→オンラインでのスクールプログラムの増加・充実。※特に米国ではプログラムの多言語化(英語+スペイン語など)が進んだ。
  • アウトリーチ(美術館教材貸し出し)活用の宣伝と普及。
  • 今後急務の課題として、タブレット利用を前提としたスクールプログラムの検討。
  • 一方で、デジタル活用ができない人への対応・フォローの必要性。
  • Physical and Virtual are different
  • Change our approach to digital programs to be more immediately responsive
  • 共通言語を探す(共通言語の必要性)、デジタルアクセス(つながる)

2月20日の後半も楽しみです!

花祭窯の二月(如月)の庭。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

花祭窯の二月(如月)の庭。

極寒だった1月が過ぎて、ちょっぴりホッとしています。2月に入ってから暖かい日が何日かあったため、いろいろな花が咲きはじめました。気持ちが華やぐ今日この頃です。

花祭窯の二月の庭水仙

水仙が咲きはじめました。

花祭窯の二月の庭水仙

こちらはお向かいの畑のスイセン。毎年この季節、気分を明るくしてくれる景色です。

花祭窯の二月の庭沈丁花

沈丁花(ジンチョウゲ)もそろそろ開きそうです。

花祭窯の二月の庭沈丁花

ひとつ咲いていました。咲くとすぐにわかる、香りの幸せです。

いちごの花

昨年末にお友だちからいただいて育てていたイチゴの苗に花。ひとつでもイチゴが収穫できることを祈りつつ。

花祭窯の二月の庭

こちらもいただいたパンジー。いただいた時点で花はひとつでしたが、数日後には二つめが咲きました。

花祭窯の二月の庭

先日お友だちからいただいた寒緋桜(かんひざくら)も元気です。

こうして写真を眺めていると、なんとも春っぽい景色です。ただ今週後半には天気予報に雪マークもあり、季節はまさに三寒四温。季節の変わり目、どなたさまも心と体に休息と栄養をとってご自愛なさってくださいね。

読書『レンブラントをとり返せ―ロンドン警視庁美術骨董捜査班-』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『レンブラントをとり返せ―ロンドン警視庁美術骨董捜査班-』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー 著

2019年に原著が出版された、ジェフリー・アーチャーの新刊です。まずは「え!ジェフリー・アーチャーの新刊!?」と驚いてしまいました。2019年にスティーヴン・キングの『書くことについて』を見つけて読んだ時と同じ驚きです。そう、彼らはまだ現役で執筆しているのですね。ちなみにジェフリー・アーチャーは2020年で80歳だそうです。ずいぶん前から彼らの名前を知っているから、勝手に「ちょっと昔の人」のイメージを持ってしまっていましたが、若くからずっと活躍し続けているということ。あらためて、すごいなぁと思いながら読みました。

さて『レンブラントをとり返せ』。タイトルからわかる通り、美術を取り巻く警察ものです。ジェフリー・アーチャーの著作では、デビュー作『百万ドルを取り返せ』でも画廊街でのストーリーが出てきますし、『運命のコイン』のストーリーのなかでも美術が一定の役割を果たしています。わたしはまだ読んでいませんが『ゴッホは欺く』のタイトルもあり、著者自身の美術への造詣の深さが感じられます。

読後感としては、『百万ドルを取り返せ』や『運命のコイン』を読んだ時のような重さ、衝撃はありませんでした。ジェフリー・アーチャー作品に対する勝手な思い込みがありましたので、正直なところちょっと物足りない感じ。でも裏を返せば、複雑さや難解さが取り払われていて、娯楽的に楽しんで読めるということでもあります。

本書はシリーズのスタートに位置づけられています。これから同主人公が活躍するシリーズがどこまで続いていくかは、ジェフリー・アーチャー自身がどれだけ長生きできるかにかかっていると、本人によるコメントが「はじめに」に添えられていて、思わずニヤリとしました。芸術家の方々を見ていてもそうですが、キャリアに安住することなくチャレンジ精神を持ち続けることが、長く活躍する秘訣なのですね。

目的・内容・方法…社会教育・生涯学習を考える。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

目的・内容・方法…社会教育・生涯学習を考える。

福津市には「郷育カレッジ」という市民のための生涯学習の仕組みがあります。このブログでもたびたび郷育カレッジのことを取り上げています^^福津市やその周辺の「ひと・もの・こと」を題材に、ふるさと・健康福祉・環境・生きがいなどのさまざまな分野で、毎年約100講座を展開。市の郷育推進課が中心となり、ボランティアスタッフの「郷育運営委員」がカレッジ運営をサポートしており、わたしもその末席に加わっています。

2020年度はコロナ対策に追われました。まず計画していた講座のうち7-8月の講座はすべて中止となりました。9月以降も「密」になりそうな講座を中止したり、講師の方との判断で中止にしたり。開催できた講座の数は、当初予定より大幅に少なくなってしまいました。開催の際も、マスク着用や消毒などの基本的な予防はもちろん、受講生の定員数をかなり減らすなど、郷育カレッジの開校以来の対応を迫られた一年となりました。

現在、来年度(令和3年度)の郷育カレッジ開校に向けて、大詰めの検討が進められています。毎年この時期は、講座内容の確定や講師の方々への依頼など、気忙しくなってくるタイミングではあります。それに加え、まだ先が見通せず予断を許さない来年度に向けて、内容・方法についての検討に例年以上に頭をひねっています。

この一年を踏まえて、できるだけ開催できるような形を模索しています。移動や接触が前提となる講座は、来年度については計画をせず、「ソーシャルディスタンスを保った座学」でできる内容を増やすこと。「今だからこそ気になること」を学ぶことのできる講座を増やすこと。そして、方法のひとつとして「オンライン」をどう使えるかも、今後は考えて行かねばなりません。

小学生から大学生まで、学校教育の現場もやり方も一変した昨年一年間。コロナ禍で「方法」の変化を急激に求められた感がありましたが、ここ数年の世の中の大勢としてその流れはありました。大人の学び場である社会教育の現場でも、それは同じです。郷育カレッジの場合、変えるというよりは選択肢を増やすという意味合いでも、「オンライン」を検討の土台に載せることが必要です。ますますたくさんの市民の方々に活用していただけるように、目的・内容・方法を検討していきたいと思います。

実務レベルの課題で、やるべきことが明確なときに、「よろず相談」窓口は便利。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

実務レベルの課題で、やるべきことが明確なときに、「よろず相談」窓口は便利。

よろず相談。国が設置している「起業希望者・個人事業主・中小企業のための無料経営相談所」です。各都道府県に支援窓口が設置されていて、わたしの場合は「福岡県よろず支援拠点」。登録されている各分野の専門家が相談に応じてくれるこの仕組みは、1回1時間までながら、「無料」で「何回でも使える」のがすごいところです。これまで商工会や県・中小機構等の専門家派遣や個別相談でもかなりお世話になってきていますが、それぞれに仕組面や人材面で強みをお持ちなので、使い分けながら助けていただいています。

福岡県では2021年2月現在45名の専門家の方々が登録されています。数年前に初めて使おうと思ったときは、「よろず相談の専門員のレベル」について、辛口の評価をする人も少なくありませんでした。けれど、「無料サービス」と思えば、それは使いよう。自分の解決したい問題がはっきりしていて、そこに合致する専門家を指名することさえできれば、少なくとも自分自身よりは専門知識が豊富で経験を積んできた専門家に出会うことができると実感しています。

では、そんな専門家をどうやって探したらよいのか?わたしはこの1年では、2名の専門家の方にそれぞれ2回づつお世話になっていますが、概ね満足な結果です。今後もそれぞれに「このテーマだったらこの人」という感じでお願いしようと思っています。ちなみに自分の課題に合う専門家を見つけるのには、次のような手順で探しました。

  1. よろず支援拠点に電話をして、解決したい課題に対応できそうな専門家の方のお名前を複数挙げてもらう。
  2. そのお名前をもとにネット検索で、それぞれの会社情報や実績を確認する。
  3. 比較検討したうえで、より自分の課題に合いそうな方を指名する。

上記の手順で探すほか、専門家の方に対応していただくときに、雑談のなかで「こういう課題に対して強い専門家の方をご存じですか?」と、別の分野の専門家についての助言をいただくこともしています。よろず支援拠点に登録している専門家の方々は横のつながりもあるようなので、「専門家の目で見た、他の専門家の評価」をお聞きすることができます。

福岡県のよろず支援拠点の場合は、まず電話で専門家の予定を確認したうえで、サイトから予約を入れるシステムです。希望する専門家の方の予定が空いていれば、数日中に対応してもらえるのも嬉しいですね。使わないとソン!だと思います^^

利用者にとっては無料サービスですが、専門家には当然対価が支払われていて、それは国から(=税金)出ています。1時間を無駄にしないよう、面談時までに聞くべきことを優先順にリストアップして相談していきます。解決に時間がかかりそうなことについては、「また次回、この件でお願いしていいですか?」と確認しておくと、次回相談を入れたときに先方も心構えしてくださります。

よろず相談はもともとは相談窓口に赴いての対面相談でしたが、昨年からは一気に「Zoom利用」に切り替わっています。Zoomではパソコン画面の共有が容易に可能なので、PC上で作業をしながら具体的にアドバイスをいただくことができ、実務ベースで指導していただくのに最適ですね。この点は、ご時世で思いがけず改善された部分。おかげさまで、ありがたくサービスを享受しております。

2020年読んだ本ベスト5。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2020年読んだ本ベスト5。

すでに記事にしたと思い込んでいました…昨年の「読んだ本ベスト5」をまだ出していなかったことに気づき、あわてて読書記録を振り返り。昨年は例年よりたくさん読んでいたうえに、良書との出会いが盛沢山でした。とても5冊では足りない!と思いながらも、選んで選んで残ったのがこの5冊です。上の写真は、第1位の本の目次ページ。

第1位 『美術館っておもしろい!』(河出書房新社)モラヴィア美術館

「展覧会のつくり方、働く人たち、美術館の歴史、裏も表もすべてわかる本」(阿部賢一・須藤輝彦 訳)です。これまでこういう本(美術本ならぬ美術館本)を見たことがありませんでした。アートエデュケーターとして仕事をしていくうえで、常にそばに置いておきたい絵本です。

第2位 『小説 イタリア・ルネッサンス』(新潮文庫)塩野七生

「1 ヴェネツィア」「2 フィレンツェ」「3 ローマ」「4 再び、ヴェネツィア」の全四巻の塩野七生ワールド。アーティストにとって特別な時代「ルネサンス」を、史実をベースに描いた歴史小説です。政治の話のなかに芸術・芸術家とのかかわりが必然的に描かれているのが、かの国での芸術・芸術家の地位・重要性を感じさせるものであり、とても面白く読みました。

第3位 『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝 著

ここ数年美術鑑賞によるトレーニング・研修効果をうたう本が次々と出ています。そんななか「効果が科学的に検証されている、絵画観察を用いたトレーニング」について論じているのが本書の特徴であり、強み。鑑賞教育の担い手にとって、心強い一冊です。

第4位 『7つの階級 英国階級調査報告』(東洋経済新報社)マイク・サヴィジ著、舩山むつみ訳

英国社会に興味があるので読んだ、というのが一番の動機でしたが、予想していたよりもずっと重い問題提起の本でした。英国だけの問題ではなく、自分の住んでいる国、地域、そして自分自身を省みて考えさせられます。個人的には特に「文化資本の力」と「文化的スノビズム」の二つのキーワードが、課題となりました。

第5位 『運命のコイン 上・下』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー

ソビエト(ロシア)、イギリス、アメリカの近現代史を振り返ることのできる小説。ストーリーの面白さに加え、ジェフリー・アーチャーその人への興味もかきたてるものでした。ここからスタートして『ケインとアベル』『百万ドルを取り返せ!』と、楽しみが広がりました。

ちなみに、ベスト5候補として挙がったほかの本は、トルストイの『アンナ・カレーニナ(上・中・下)』チャップリンの『チャップリン自伝(「若き日々」「栄光と波瀾の日々」)』ディケンズの『クリスマスキャロル』エミリー・ブロンテの『嵐が丘(上・下)』プレジデント社から出た『観光再生』など。特に『アンナ・カレーニナ』と『嵐が丘』は、衝撃的でした。

和・洋の小説、ビジネス書、学術書、絵本まで、たくさんの良書と出会えた一年でした。こうしてあらためて振り返ると、本のおかげで広がった世界があることを、あらためて感じます。感謝!

読書『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著

なんとも痛快な一冊を見つけました。あとがきに『「これが日本の伝統」に乗っかるのは、楽チンだ』と書いてある通り、実に皮肉に満ちていて、面白おかしく読みました。著者の肩書に「作家・脚本家・放送作家」とありますが、「放送作家」としての経験や視点が色濃く反映されているのでしょう。伝統とビジネス、伝統とメディアの関係性が、さらっと暴かれています。上手に持ち上げられ、作り上げられ、利用されている「伝統」を、目の前に突き付けてくれる本です。

とはいえ著者が『「伝統」そのものを否定しているわけではありません』というのは、読めばよくわかります。多様な「伝統の例」を斬ることを通して、読者自身に何が問題かを気づかせてくれます。深刻な問題提起というよりは、4コマ漫画的な批判精神とユーモアあふれる切り口。ズバッとやられます。

それぞれの事例の伝統度合いを「○○から○○年」というように数値化しているのが秀逸です。「土下座は謝罪なのか?」として『土下座が謝罪の意味を持ち始めて、約90年。国語辞典にそれが載り始めて、約50年。ドラマ「半沢直樹」の土下座から、約7年。』(『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著より)とあったのには笑いました。

あとがきに、本書の意図がしっかり述べられています。『「伝統」という看板を掲げてはいるけれど、その実態は「権益、権威の維持と保護」にすぎないケースもあります―ミもフタもない言い方ではありますが。』(『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著)の言葉に、大いにうなずきました。伝統工芸の世界「あるある」なのです(笑)

仕事柄わたしも、「伝統」「伝統文化」「伝統工芸」などなど「伝統」を含む言葉をよく使います。無意識に「この言葉を使っておけばとりあえずOK」になっていないか、気を付けなければならないと自省しました。「権威」「ブランド」「伝統」に頼るようになったらお終いですね。